こんにちは。 マサです。
調剤薬局にて薬剤師として働いています。
当薬局で水疱性類天疱瘡を発症した患者さんがいましたので調べてみました。
わかったこと
・全てのDPP-4阻害薬でリスクになる
・DPP-4阻害薬服用者の発症リスクは3倍
・70歳未満の高齢者に多い
・HLA遺伝子「HLA-DQB1*03:01」を保有していると生じやすい
・DPP-4阻害薬の服用中止とステロイド治療で改善する
調べてわかった課題
・水疱性類天疱瘡の患者さん自体が少ないため、日本でのデータに限りがある
・DPP-4阻害薬服用前に、簡易的にHLA遺伝子を調べることができないため、服用してみないと水疱性類天疱瘡を生じやすいのか、そうでないのかわからない
・対象となるHLA遺伝子を持っていなくても、14%の患者さんは水疱性類天疱瘡を生じる
薬剤師に求められること
・DPP-4阻害薬の極めて稀な副作用として水疱性類天疱瘡があることを承知しておく
・疑わしい場合は速やかに皮膚科受診を勧める
お風呂に入っている時に気づいたんだけど、今までなかった水疱がある。
気にしなくて良い?


場合によっては入院治療が必要になることがあります。
・当薬局の症例
・北イスラエルにある自己免疫水疱性疾患における3次医療機関にて行われた後ろ向き症例対照研究
・北海道大学病院の氏家英之講師らと理化学研究所統合生命医科学研究センターの研究グループによる研究
・水疱性類天疱瘡とは
当薬局の症例
服用薬 :ネシーナ錠6.25mg(規格の変更はあったが、服用歴10年)
発見理由:水疱ができたので発見
経 過 :近くの皮膚科を受診したら総合病院を紹介。ネシーナ錠6.25mg中止、プレドニン錠服用開始。症状改善によりプレドニン休薬。再発あればプレドニン再開予定(再発なし)
北イスラエルにある自己免疫水疱性疾患における3次医療機関にて行われた後ろ向き症例対照研究
糖尿病患者のDPP-4阻害薬およびメトホルミンの服用量と、水疱性類天疱瘡について検討しています。
実施期間:2011年1月1日〜2017年12月31日(追跡期間中央値2.0年)
水疱性類天疱瘡患者:糖尿病治療継続者82例、非水疱性類天疱瘡の糖尿病治療継続者328例(平均年齢:70.1±9.1歳、女性44例(53.7%)
結果
・DPP-4阻害薬服用者の水疱性類天疱瘡のリスクは3倍(補正後オッズ比[OR]:3.2、95%信頼区間[Cl]:1.9〜5.4)
・DPP-4阻害薬の使用と水疱性類天疱瘡との関連は、メトホルミン服用とは独立して認められた
・女性(OR:1.88、95%Cl:0.92〜3.86)より男性(OR:5.59、95%Cl:2.11〜9.40)において関連性が強い
・70歳未満の患者において関連が強い
・DPP-4阻害薬未服用の水疱性類天疱瘡患者と比較し、服用者では粘膜病変を有する割合が高く(22.2% vs. 6.5%,p=0.04)、末梢血中の好酸球数が少なかった(平均±SD:399.8±508.0 vs. 1117.7±1847.6個/μL、p=0.01)
・DPP-4阻害薬の服用中止により、水疱性類天疱は瘡改善した
北海道大学病院の氏家英之講師らと理化学研究所統合生命医科学研究センターの研究グループによる研究
対象者:DPP-4阻害薬服用中に生じた水疱性類天疱瘡30例
研究内容:上記対象者の皮膚症状と自己抗体を調べ、「非炎症型」と「炎症型」に分類し、「HLA」遺伝子を解析
比較対照:DPP-4阻害薬を服用していない水疱性類天疱瘡72例と、DPP-4阻害薬服用中で水疱性類天疱瘡を発症していない糖尿病患者61例のHLAも解析し、一般的な日本人873例のHLAデータと比較
結果
・DPP-4阻害薬服用中に生じた水疱性類天疱瘡30例のうち。21例(70%)が紅斑の少ない「非炎症型」であった。「炎症型」は9例(30%)
・「非炎症型」の水疱性類天疱瘡を発症した21例のうち、86%(18例)がHLA遺伝子「HLA-DQB1*03:01」を保有していた。「炎症型」の9例のうち、44%(4例)がHLA 遺伝子「HLA-DQB1*03:01」を保有していた。
・一般的な日本人873例中、HLA遺伝子「HLA-DQB1*03:01」を保有していた割合は18%(156例)であった。
水疱性類天疱瘡とは
参考ホームページ 日本皮膚科学会 MSDマニュアル
血液中に表皮と真皮の境となる基底膜部に対する自己抗体ができ、それが表皮の基底膜にある自己抗原に結合することで、表皮と真皮の接着が悪くなり、水疱を作る病気です。
本来抗体は特定の抗原を見つけて攻撃し、体を守る機能です。
例えば、インフルエンザウイルスワクチンを接種すると、インフルエンザウイルスに対する抗体ができ、インフルエンザウイルス(抗原)が体に入ると攻撃して体を守ります。
しかし自己抗体とは、本来できてはいけない抗体が何らかの原因によってできてしまい、自分の体を攻撃してしまいます。
水疱性類天疱瘡は高齢の患者さんに多く、年齢的には60歳以上、特に70歳〜90歳の高齢者が多いです。まれに18歳以下の若年者にもみられます。
(*DPP-4阻害薬の副作用の場合は70歳未満が多いようです)
症状
かゆみを伴う紅い斑点(紅斑)と直径1cm以上のパンパンに張った“水ぶくれ”と“ただれ”がみられます。
治療
基本はステロイドを経口内服します。
軽症例や症状が限定されていれば、ステロイドの塗り薬や一部の抗生物質などを経口内服します。
重症例は大量のステロイドを経口服用したり、免疫抑制剤を一緒に服用したりします。
日常生活での注意
薬の使用を忘れないことが大切です。
ぶつけやすい場所、擦れやすい場所に水疱を生じやすいため、体をぶつけたり、擦れるような服や下着、きついベルトを避けることが大切です。
症状のある場所に直接絆創膏を貼ることはせず、全体をガーゼで覆い、その上からネットなどで固定すると良いです。
人に移ることや遺伝することはありませんので、治療に協力するご家族の方が不安になることはありません。
経過
新しく作られる水疱がなくなれば、少しずつステロイド薬を減らします。
通常は数ヶ月で症状が改善に向かいますが、なかには数年間の治療が必要となることがあります。
原因となり得る薬剤
・フロセミド
・スピロノラクトン
・オメプラゾール
・PD-1およびPD-L1モノクローナル抗体[例:デュルバルマブ、ニボルマブ、ペムブロリズマブ]
・サラゾスルファピリジン
・ペニシリン
・ペニシラミン
・エタネルセプト
・抗精神病薬
・DPP-4阻害薬
など