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薬剤師が考える!!低血糖治療薬『バクスミー点鼻粉末剤』は価値がある


こんにちは。 マサです。

調剤薬局にて薬剤師として働いています。

2020年10月に重症低血糖治療薬として、『バクスミー点鼻粉末剤』が発売されました。
従来の重症低血糖治療では、同じグルカゴン製剤による筋肉注射が行われていました。
今回発売された『バクスミー点鼻粉末剤』にどのような価値があるのかを考えてみたいと思います。

 

バクスミー点鼻粉末剤は価値のある薬

理由は、従来の筋肉注射と比べて同等の効果があり、しかも点鼻という剤形により筋肉注射よりも投与が簡便になっているためです。
筋肉注射の方が早く効くのでは?と疑問に思う方がいると思います。
確かに同時使用の場合には筋注の方が早く効きます。しかし、低血糖がわかった時に薬を準備して投与して効果が出るまでのトータル時間でいうと、点鼻粉末剤の方が早い効果を期待できます。
リリー株式会社のホームページには筋注の準備から投与までの時間が3分27秒、点鼻では24秒で投与可能であった、というデータがあります。
効果発現時間はグルカゴンの筋肉注射で12分、点鼻粉末剤で11分と筋肉注射の方が1分早いですが、製剤を準備して実際に使用するまでの時間を考慮しますと、筋肉注射では15分(準備時間+効果発現時間)、点鼻では11.5分(準備時間+効果発現時間)と点鼻の方が3.5分も早くなります。
重症低血糖時における3.5分は大きな時間のように思います。

バクスミー点鼻粉末剤の効果

バクスミー点鼻粉末剤を血糖値60mg/dL未満に低下した患者に投与した場合、70mg/dL以上、もしくは、最低値から20mg/dL以上上昇した割合は100%とされています。(IGBJ試験:日本人第Ⅲ相試験より)

2020/10/07 追記:IGBJ試験において、血糖値が70mg/dL以上に上昇した割合は100%(68例)であり、バクスミー点鼻粉末剤使用前の最低血糖値は34mg/dLだったそうです(日本イーライリリー様に確認)。

なので、とても有効な薬のように思います。
「意識のない患者さんに使用して、必ず意識が戻るの?」と疑問が生じるかもしれません。
その答えはわかりません。意識が戻った時には、再度低血糖を起こさないためにも糖分の摂取が必要です。

経口ブドウ糖とは比較できない

経口ブドウ糖は意識がある時に使用するものであり、バクスミー点鼻粉末剤は意識がないような時や自分では対応できない時なので、比較しても意味がありません。
もちろん、比較があった方が理解しやすいですが、私には直接比較したデータを見つけられませんでした。
患者さん自身が使用するならブドウ糖が良いです。なぜならば、ブドウ糖の方が安価ですし、ブドウ糖を経口摂取できる状態であれば5分程度で低血糖症状が改善することが多いと言われています。15分程度で回復しなければ、再度10−20gのブドウ糖を摂取します。
ですが、バクスミー点鼻粉末剤は意識がなくなったり、自分で対処できないような重症例において使用することになります。なので、経口ブドウ糖とは比較できません。
通常の低血糖であれば経口ブドウ糖。重症低血糖であればバクスミー点鼻粉末剤となります。もし医師や救命救急士であれば、ブドウ糖の静注を行います。

鼻炎の患者さんでもバクスミー点鼻粉末剤は効果がある

風邪症状の鼻閉や鼻汁、鼻炎薬を併用していても、併用していない時と比べて効果に差がないというデータがあります(IGBE試験より)。しかも、点鼻後に深呼吸や吸入の必要がないとされています。
花粉症の点鼻液を使用すると、上手く投与できずに液が流れ出てしまうことがあります。
ここで、大切なことは、バクスミーが『粉末剤』であるということです。液体のように流れ出る心配がありません。さらに、バクスミー点鼻粉末剤を使用する時は、おそらく立っていられないような状態、すなわち横になっていると思います。その時にちゃんと根元まで注して噴霧することで、ほぼ正しく必要量が投与できると思います。

副作用で最も多いのは『悪心』

最も多いのは悪心(19.2%)です。次に嘔吐(11.2%)、頭痛(12.1%)、鼻部不快感(3.6%)・鼻閉(3.1%)・鼻痛(2.7%)、流涙増加(3.6%)となっています。
(IFの国内外第Ⅲ相臨床試験IGBJ/IGBI/IGBC試験での副作用発現割合一覧より)

薬価(費用対効果)

バクスミー点鼻粉末剤 8368.6円/瓶(3割負担:2,510.58円、1割負担:836,86円)
価格だけを見ればとても高価な薬と思います。ただ、違った視点から見ると、本当に高価な薬かどうか考えさせられます。
以下、リリー株式会社のホームページより
『重症低血糖で意識がなくなった患者さんに、あなたはグルカゴン筋注を使用したいと思いますか?』というアンケートに対して、5.3%の方が『とてもそう思う』、42.1%の方が『そう思う』、31.6%の方が『そう思わない』、21.1%の方が『まったくそう思わない』と回答をしています。

また、『重症低血糖で意識がなくなった患者さんに対して、あなたがグルカゴン筋注を使用できるように所持することをお勧めしますか?』というアンケートに対して、10.5%の方が『とてもそう思う』、47.4%の方が『そう思う』、21.1%の方が『そう思わない』、21.1%の方が『まったくそう思わない』と回答しています。

要するに約2割の患者さんは、重症低血糖においてもグルカゴン筋注の使用を控えるか使用できない可能性があるということです。

これに対して点鼻粉末剤では、『重症低血糖で意識がなくなった患者さんに、あなたはバクスミー点鼻粉末剤を使用したいと思いますか?』という同じアンケートに対して、57.9%の方が『とてもそう思う』、42.1%の方が『そう思う』と回答しています。

また、『重症低血糖で意識がなくなった患者さんに対して、あなたがバクスミー点鼻粉末剤を使用できるように所持することをお勧めしますか?』という同じアンケートに対して、68.4%の方が『とてもそう思う』、31.6%の方が『そう思う』と回答しています。

要するに、点鼻粉末剤であれば重症低血糖の時に使用しやすい、ということです。

さらに、救急車を一回出動させるだけで約45,000円の税金がかかると言われており(QLIFEホームページより)、重症低血糖が原因と考えられる救急搬送が年間約2万件発生していると推計されています(糖尿病ネットワークホームページより)。
2万件の内の2割である4,000件の患者さんがグルカゴン筋肉注射を使用しなかった場合、そこにかかる救急車の出動費だけで1億8千万円です。もしバクスミー点鼻粉末剤を使用することで救急車の出動がなくなっただけで、バクスミー点鼻粉末剤にかかる費用8,368.6円の4,000件で3千3百万円を差し引いても1億4千6百万円以上医療費削減になります。
バクスミー点鼻粉末剤を使用した患者さんも救急車を使用することがあると思います。しかし、救急車を使用する回数が減れば価値があると私は思います。

バクスミー点鼻粉末剤が価値のある薬であると思いませんか?

 

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