お薬について

薬剤師が調べた糖尿病薬『α-GI』の違い 各種文献を参考にまとめました


こんにちは。 マサです。

調剤薬局にて薬剤師として働いています。

今回は糖尿病治療薬であるαーグルコシダーゼ阻害薬(αーGI)についてまとめました。

ミグリトールについては文献を発見できませんでしたので、文献についてはアカルボースとボグリボースについてご紹介します。

α-グルコシダーゼ阻害薬について

作用機序
・小腸粘膜細胞の印子縁に存在するαグルコシダーゼ(マルターゼ、スクラーゼ、グルコアミラーゼなど)を阻害する

・アカルボースはαアミラーゼ阻害作用も有している
糖尿病診療ガイドライン2019
→ジアスターゼ・ヂアスターゼを含む薬品との併用に注意が必要
(S.M配合散、フェンラーゼ配合カプセル、オーネス、ベリチーム、つくしA・M、タフマックなど)

・ミグリトールはラクターゼ阻害作用も有している(乳製品を摂取する人は注意が必要)

特徴
・腹部症状が現れた場合は、薬を一度減量し再度漸増することで改善することが多い
糖尿病診療ガイドライン2019

・腹部手術歴のある場合に腸閉塞を、肝硬変がある場合には高アンモニア血症などを誘発する可能性があり、いずれも慎重投与
糖尿病診療ガイドライン2019

・腹部症状の出やすさ:アカルボース>ボグリボース>ミグリトール
(ミグリトールは症状上部で半分吸収されることから、最も腹部症状が出にくいと考えられる。
そして、アカルボースはαアミラーゼ阻害作用も有しているので、最も腹部症状が出やすいと考えられる)

・効果の強さ:ミグリトール>アカルボース>ボグリボース(リンクはこちら

・効果発現の速さ:ミグリトール>アカルボース
効果消失の速さ:ミグリトール>アカルボース
(リンクはこちら

SU薬の違いについては下記の記事をご覧ください

グリニド系の違いについては下記をご覧ください

アカルボースの特徴

・耐糖能異常のある患者の2型糖尿病発症予防効果が期待できる(STOP-NIDDM:Lancet2002

・耐糖能異常のある患者への投与は、心血管イベントと高血圧のリスクを有意な減少に関連していた(STOP-NIDDM:JAMA2003

・アカルボースは、糖尿病の併用療法に関係なく、2型糖尿病患者の血糖コントロールを3年間で有意に改善した(UKPDS44

・アカルボースは、用量依存的に糖尿病患者の結腸直腸癌の発症リスクを低減した(Tseng YH, et al.

・アカルボース群とプラセボ群では空腹時高血糖への進行速度に有意差は認められなかった(EDIP試験

・食後高血糖の改善が糖尿病の進行抑制にはならないと考えられる(EDIP試験

ボグリボースの特徴

・耐糖能異常のある日本人において、ボグリボースはライフスタイルの改善に追加することで、2型糖尿病の発症を予防する(Voglibose Ph-3 Study

・ボグリボースは0.2mgに糖尿病発症予防の保険適応がある(添付文書参照)

ミグリトールの特徴

・主要文献を発見できず

・ミグリトールは小腸上部で半分吸収されるが、アカルボースとボグリボースはほとんど吸収されない(リンクはこちら

・ミグリトールは症状上部で半分吸収されるため、小腸下部での作用が減弱している可能性がある。そのため、小腸下部から分泌されるGLP−1濃度を高めることが期待されている(リンクはこちら

・ミグリトールは食事の直前服用と食事開始後30分以内の服用で同等の効果を示したデータがある(リンクはこちら

STOP-NIDDM(Lancet2002)

・糖尿病トライアルデータベースのリンク

・原著論文のリンク

目的
アカルボースによる耐糖能異常患者が2型糖尿病へ移行することを予防または遅延するかどうかをプラセボと比較評価

デザイン
ランダム化比較試験

追跡期間
平均3.3年

対象者
・すべての患者は、減量または体重維持の食事療法を行うように指示され、定期的に運動することが奨励された
・アカルボース1回100㎎を1日3回群682例
・プラセボ群686例

方法
多施設共同

結果
・アカルボース群の211例(31%)、プラセボ群の130例(19%)が早期に治療を中止
・アカルボース群の221例(32%)、プラセボ群の285例(42%)が2型糖尿病を発症した(相対ハザード0.75[95%Cl0.63-0.90])

結論
・アカルボースは耐糖能異常の患者の2型糖尿病発症予防効果が期待できる
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STOP-NIDDM(JAMA2003):Lancetの副次目的での試験

・糖尿病トライアルデータベースのリンク
・原著論文のリンク

目的
耐糖能異常患者に対するアカルボースによる食後高血糖の減少効果が心血管疾患(心筋梗塞、狭心症、血行再建術、心血管死、うっ血性心不全、脳血管イベント、末梢血管疾患)および高血圧(少なくとも140/90mHg)のリスクに与える影響を評価

デザイン
・プラセボ二重盲検比較試験

追跡期間
平均3.3年

対象者
・すべての患者は、減量または体重維持の食事療法を行うように指示され、定期的に運動することが奨励された
・空腹時血糖値:110mg/dL-140mg/dL
・アカルボース1回100㎎を1日3回群682例
・プラセボ群686例

方法
多施設共同

結果
・アカルボース群の211例(31%)、プラセボ群の130例(19%)が早期に治療を中止
・心血管イベントの発症が相対リスクを49%減少(HR:0.51 95%Cl 0.28-0.95)、絶対リスクを2.5%減少
・心血管イベントの中で、主な減少は心筋梗塞(HR:0.09 95%Cl 0.01-0.72)
・高血圧の新規発症率の相対リスクを34%減少(HR:0.66 95%Cl 0.49-0.89)、絶対リスクを5.3%減少
・主要な危険因子を調整した後でも、心血管イベント(HR:0.47 95%Cl 0.24-0.90)と高血圧の発症(HR:0.62 95%Cl 0.45-0.86)の減少と関連している
・統計的にみると、耐糖能異常患者40人にアカルボースを投与すると、3.3年で1つの心血管イベントを予防することができる
・統計的にみると、耐糖能異常患者19人にアカルボースを投与すると、3.3年で1つの高血圧を予防することができる

結論
・耐糖能異常のある患者へのアカルボースの投与は、心血管イベントと高血圧のリスクを有意な減少に関連していた
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UKPDS 44

・糖尿病トライアルデータベースのリンク
・原著論文のリンク

目的
2型糖尿病患者における食後高血糖を改善するα-GIの長期使用における程度を検討

デザイン
・プラセボ二重盲検

追跡期間
3年間

対象者
・UKPDSに登録された2型糖尿病患者
・14%は食事療法、52%は単剤療法(SU26%、メトホルミン6%、インスリン20%)、34%は併用療法(SU+メトホルミン16%、SU+インスリン4%、複数のインスリン14%)

方法
UKPDSに登録された患者

結果
・アカルボース群973例、プラセボ群973例
・服用を継続している割合がアカルボース群で低かった(アカルボース群:39%、プラセボ群:58%)
・服用が低下する主な理由は腹部膨満(アカルボース群:30%、プラセボ群:12%)、下痢(アカルボース群:16%、プラセボ群:8%)
・軽度または重度の低血糖の頻度は、どの時点でも群間差は認められなかった(データが示されていない)
・アカルボース群はプラセボ群と比較して、3年でHbA1cが中央値で0.2%有意に低かった
・アカルボースは食事療法のみ、単剤療法(SU、メトホルミン、インスリン)への追加、多種類併用療法のどの治療においても同様に効果的な結果(空腹時血糖値、体重、低血糖の発生率)が認められた
・尿中アルブミン、インスリン感受性は有意差が認められなかった

結論
・アカルボースは、糖尿病の併用療法に関係なく、2型糖尿病患者の血糖コントロールを3年間で有意に改善した
・アカルボースによる副作用による服用率低下については注意深い観察が必要
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Tseng YH, et al.

・糖尿病トライアルデータベースのリンク
・原著論文のリンク

目的
α-GIであるアカルボースと糖尿病患者における大腸癌との関連性を評価

デザイン
コホート研究

追跡期間
3.4年

対象者
・1998年から2010年の間に新たに登録された糖尿病患者(1,343,484例)のうち、アカルボース群 199,296例、プラセボ群119,296例

方法
・台湾国民健康保険研究データベースを活用

結果
・1,487,136人/年の追跡期間中に糖尿病のコホートでは1,332件の結腸直腸癌が報告された(全体の発生率は89.6例/10万人・年)
・アカルボース群はプラセボ群と比較して、結腸直腸癌のリスクが27%減少した

結論
・アカルボース群では、用量依存的に糖尿病患者の結腸直腸癌の発症リスクを低減した
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EDIP試験

・糖尿病トライアルデータベースのリンク
・原著論文のリンク

目的
アカルボースによる食後高血糖の改善が早期2型糖尿病(空腹時血糖<140m/dL、食後2時間値≧200mg/dL)の進行を予防または遅延させるかを検討

デザイン
・プラセボ二重盲検

追跡期間
・5年間

対象者
・初期の2型糖尿病患者(空腹時血糖<140m/dL、食後2時間値≧200mg/dL)
・BMI≧24

方法
・インディアナ大学医学部とワシントン大学医学部

結果
・アカルボース群109例、プラセボ群110例
・全用量を正しく服用できた割合は5年目でアカルボース群79%、プラセボ群83.8%だった
・アカルボースは食後高血糖の改善効果を期待できる。しかし空腹時高血糖を抑制できない
・空腹時血糖値126mg/dL未満の患者ではアカルボース投与群で進行が抑制された
・空腹時血糖値126mg/dLを超える患者ではβ細胞機能の障害を防止できなかった

結論
・アカルボース群とプラセボ群では空腹時高血糖への進行速度に有意差は認められなかった
・食後高血糖の改善が糖尿病の進行抑制にはならないと考えられる
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Voglibose Ph-3 Study

・糖尿病トライアルデータベースのリンク
・原著論文のリンク

目的
・ボグリボースによる耐糖能異常を持つ日本人を対象とした2型糖尿病の発症予防効果を評価

デザイン
・二重盲検、プラセボ対象

追跡期間
・3年以上

対象者
・耐糖能異常を持つ日本人

方法
・多施設

結果
・ボグリボース0.2mg 1日3回群897例、プラセボ群883例
・ボグリボース群はプラセボ群よりも2型糖尿病を発症するリスクが低かった。HR:0.595(95%Cl:0.433-0.818、p=0.0014)(ボグリボース群:50/897例、プラセボ群:106/881)
・有害事象の発生はボグリボース群:810/897例(90%)、プラセボ群:750/810例(85%)。
・ボグリボース群の重篤な有害事象は、胆嚢炎、結腸ポリープ、直腸腫瘍、鼠径ヘルニア、肝機能障害、クモ膜下出血が各1例。
・プラセボ群の重篤な有害事象は脳梗塞と胆嚢炎

結論
・耐糖能異常のある日本人において、ボグリボースはライフスタイルの改善に追加することで、2型糖尿病の発症を予防する

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