こんにちは。 マサです。
調剤薬局にて薬剤師として働いています。
今回は糖尿病治療薬であるSU薬についてまとめました。
SU薬はその効果の高さから多く使用されてきた薬です。
しかし、低血糖の生じやすさや心疾患のリスクから最近では使用が減っています。
それでもインスリン分泌が減っている患者さんにとっては必要なお薬です。
低血糖や心疾患リスクへの懸念があるからといってSU薬を使用しないことは、高血糖状態を維持して大血管障害や細小血管障害へのリスクを高めることにつながってしまいます。
SU薬について
・SU薬はメトホルミンの約4〜5倍、チアゾリジン薬の約4倍、低血糖を起こしやすいとされている(糖尿病診療ガイドライン2019 P.71より)
・痩せ型の2型糖尿病患者で、食後のC-ペプチドが上昇しないようなインスリン分泌能が低下し、DPP-4阻害薬などでは血糖コントロールが難しい場合にSU薬が必要となる。
・インスリン分泌作用は:グリベンクラミド>グリクラジド>グリメピリド
・血糖値低下作用:グリベンクラミド>グリメピリド>グリクラジド
・低血糖の生じやすさ:グリベンクラミド>グリメピリド>グリクラジド
・心臓負担作用:グリベンクラミド:強、グリメピリド:弱〜無、グリクラジド:無
(ただし、低血糖そのものが心臓負担になるので、グリクラジドであっても注意が必要。
Schramm TK, et al.ではSU間で心臓負担の差は認められており、Mogensen UM, et al.では認められていない)
・グリメピリドは膵外作用があるため、インスリン分泌作用がグリベンクラミドやグリクラジドよりも弱いが、それらと同等以上の血糖効果作用を示す。(膵外作用についてはこちら)
・SU薬の長期使用が大血管障害を引き起こす可能性が示唆されている(NHS試験)
・SU薬はDPP-4阻害薬と比較して心疾患、重症低血糖、死亡率のリスクがある(Eriksson JW, et al.)
・SU薬はメトホルミンと比較して心臓負担がある(Mogensen UM, et al. Morgan CLI, et al. Roumie CL, et al.)
・インスリン+SU薬はインスリン+メトホルミンと比較して死亡率が有意に高くなる。そして、それはSU薬間で有意な差は見られなかった(Mogensen UM, et al. )
心室には『Kir6.2/SUR2A』というカリウムチャネルがある
①『Kir6.2/SUR2A』は心筋梗塞時の梗塞巣拡大を抑制する防御機構を担うと考えられている(虚血耐性)。②『Kir6.2/SUR2A』は通常ほぼ閉口しているが、虚血時に開口して虚血耐性を発揮する。
③Benzamide構造を有するSU薬を服用していると、SU薬がこのチャネルと結合して虚血時でも開口することができない。
④心臓への負担につながる
(Benzamide構造を有するSU薬:グリベンクラミド、グリメピリド)
グリニド系の違いについては下記をご覧ください こんにちは。 マサです。 調剤薬局にて薬剤師として働いています。 今回は糖尿病治療薬であるグリニド系についてまとめました。 ミチグリニド(商品名:グルファスト)は海外文献を見つけられませんでしたので、 ... 続きを見る こんにちは。 マサです。 調剤薬局にて薬剤師として働いています。 今回は糖尿病治療薬であるαーグルコシダーゼ阻害薬(αーGI)についてまとめました。 ミグリトールについては文献を発見できませんでしたの ... 続きを見る
薬剤師が調べた糖尿病薬『グリニド』の違い 各種文献を参考にまとめました
α-GIの違いについては下記をご覧ください
薬剤師が調べた糖尿病薬『α-GI』の違い 各種文献を参考にまとめました
・Schramm TK, et al.
・Mogensen UM, et al.
・DIGAMI 2
・Morgan CLI, et al.
・NHS
・Roumie CL, et al.
・Eriksson JW, et al.
・Bain S, et al.
・ADVANCE試験
Schramm TK, et al.
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目的
2型糖尿病患者におけるインスリン分泌促進薬の死亡率および心血管リスクをメトホルミンと比較検討
デザイン
コホート
追跡期間
9年間(中央値3.3年)
対象者
2型糖尿病患者107,806例(心筋梗塞の既往あり:9,607例、既往なし:98,199例)
1997年〜2006年に単剤のインスリン分泌促進薬またはメトホルミンを開始
除外基準:インスリン使用者または併用療法者
方法
デンマークの全国的な登録簿を活用
結果
・心筋梗塞の既往ありの集団(メトホルミンと比較したハザード比および95%信頼区間)
グリメピリド:1.30(1.11-1.44)、グリベンクラミド:1.47(1.22-1.76)、グリピジド:1.53(1.23-1.89)、トルブタミド:1.47(1.17-1.84)、グリクラジド:0.90(0.68-1.20)、レパグリニド:1.29(0.86-1.94)
・心筋梗塞の既往なしの集団(メトホルミンと比較したハザード比および95%信頼区間)
グリメピリド:1.32(1.24-1.40)、グリベンクラミド:1.19(1.11-1.28)、グリピジド:1.27(1.17-1.39)、トルブタミド:1.28(1.17-1.39)、グリクラジド:1.05(0.94-1.16)、レパグリニド:0.97(0.81-1.15)
結論
・グリメピリド、グリベンクラミド、グリピジド、トルブタミドによる単剤療法は、メトホルミンと比較して死亡率と心血管リスクの増加に関連している
・グリクラジド、レパグリニドはメトホルミンと統計的な差が認められなかった
Mogensen UM, et al.
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目的
2型糖尿病患者において、インスリンとSU薬を併用した場合の心血管疾患および死亡リスクについて、インスリンとメトホルミンを併用した場合と比較
デザイン
後向き、コホート
追跡期間
1997年1月1日〜2009年12月31日(12年)
対象者
・2型糖尿病患者25,404例、18歳以上で心筋梗塞/脳卒中の既往なし
・1997年1月1日以降よりインスリン+メトホルミンの二剤併用した血糖降下療法を実施している患者
・インスリン+SU併用11,081例(グリベンクラミド併用1,483例、グリクラジド併用1,081例、グリメピリド併用7,275例、グリピジド併用1,028例、トルブタミド併用459例)
・インスリン+メトホルミン併用6,910例
方法
デンマーク全国登録データを使用
結果
・インスリン+SU併用は、インスリン+メトホルミン併用に比べ、死亡率が2〜5倍も上昇
(76〜126例/1000人・年 vs 23/1000人・年)
・SU薬の種類に関係なく、インスリン+SU併用は、インスリン+メトホルミン併用に比べ、死亡率が有意に高い
・すべてのSU薬+インスリン併用を統合し、メトホルミン+インスリン併用と比較しても、全死亡(RR1.83,95%Cl 1.65〜2.04)、心血管死(RR1.38,1.16〜1.64)、心筋梗塞・脳卒中・心血管死の複合(RR1.26,1.10〜1.43)のいずれのリスクも増大
・グリメピリド+インスリンを対象としてSU薬間で比較すると、全死亡、心血管死、複合エンドポイントのいずれも有意な差はなかった
結論
・インスリン+SU薬はインスリン+メトホルミンと比較して死亡率が有意に高くなる。そして、それはSU薬間で有意な差は見られなかった
DIGAMI 2
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目的
急性心筋梗塞を発症した2型糖尿病患者に対する、血糖降下薬の違いによる予後への影響を比較検討
デザイン
コホート
追跡期間
中央値2.1年
対象者
心筋梗塞後に退院した1,181人の2型糖尿病患者(平均年齢68歳、男性67%)
退院時に血糖効果薬を服用者:436名(SU薬:268例、メトホルミン:200例)、インスリン:690例
方法
Cox比例ハザード回帰モデルを用いて解析
結果
・メトホルミン、SU薬、インスリンは心血管系の死亡率に影響を与えなかった。(メトホルミンHR:0.93、95%Cl 0.60-1.43;P=0.73、SU薬HR:1.15、95%Cl 0.80-1.64;P=0.45、インスリンHR:1.05、95%Cl 0.75-1.46;P=0.77)
・メトホルミンは非致死的心筋梗塞と脳卒中を減らした。(HR:0.63、95%Cl 0.42-0.95;P=0.03)
・SU薬は非致死的心筋梗塞と脳卒中の発症に影響しなかった。(HR:0.81、95%Cl 0.57-1.14;P=0.23)
・インスリンは非致死的心筋梗塞と脳卒中の発症リスクが有意に増加した。(HR:1.73、95%Cl 1.26-2.37;P=0.0007)
結論
急性心筋梗塞後に退院した2型糖尿病患者において、インスリン、SU薬、メトホルミンの間で死亡率に有意差はなかった。非致死的心筋梗塞と脳卒中の発症リスクにおいては薬毎に違いが認められた。
今後、ランダム化比較試験によりさらなる試験が行われる必要がある。
Morgan CLI, et al.
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目的
メトホルミン+SU薬またはメトホルミン+DPP−4阻害薬の併用療法による主要心血管イベント(MACE)のリスクと全死亡率を比較
デザイン
コホート
対象者
2007年〜2012年の間にメトホルミン+SU薬またはメトホルミン+DPP−4阻害薬の併用療法を開始した2型糖尿病患者
方法
イギリスのClinical Practice Research Datalinkに登録されたデータを活用
結果
・メトホルミン+SU薬:33,983名、メトホルミン+DPP−4阻害薬:7864名が登録
・MACEの粗イベント率はSU薬:11.3/1,000人・年、DPP−4阻害薬:5.3/1,000人・年
・全死亡率はSU薬:16.9/1,000人・年、DPP−4阻害薬:7.3/1,000人・年
結論
全死亡率、MACEのどちらの発生率も、メトホルミン+DPP−4阻害薬はメトホルミン+SU薬よりも有意に少なかった
NHS
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目的
女性の糖尿病患者とSU薬の使用の関連性を前向きに検討
デザイン
コホート
追跡期間
最大10年間
対象者
糖尿病女性4,902名(平均年齢68歳、平均罹病期間11年)
方法
Nurse’s Health Study(NHS)を活用
結果
・SU薬の使用期間が長いほど冠動脈疾患のリスクが増大する
SU薬使用歴1〜5年:1.24(95%Cl 0.85〜1.81)、6〜10年:1.51(95%Cl 0.94〜2.42)、10年以上:2.15(95%Cl 1.31〜3.54)
・SU+メトホルミン群は、メトホルミン単剤療法群と比較して、冠動脈疾患の相対的リスクが3.27倍(1.31〜3.54)
・SU薬と脳卒中リスクとの間に有意差は認められなかった
結論
・SU薬の長期使用は、糖尿病女性において冠動脈疾患の発症リスクを著しく高めることと関連している
(本試験においては使用されたSU薬と量について確認がなされていない)
Roumie CL, et al.
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目的
CVD(急性心筋梗塞、脳卒中)の入院または死亡に対するスルホニル尿素剤とメトホルミンの有効性を比較
デザイン
後向きコホート
追跡期間
2001年10月1日から2008年9月30日までに新規に血糖降下薬を開始した患者
対象者
253,690名
(SU薬98,665名、平均年齢62歳、男性95%、メトホルミン155,025名、平均年齢67歳、男性97%)
方法
メディケアファイルにリンクされた国立退役軍人保健局(VHA)データベースを活用
結果
・CVD(急性心筋梗塞、脳卒中)による入院または死亡の粗発生率はSU薬18.2件/年、メトホルミン10.4/年
・調整済みハザード比1.21(95%Cl 1.13〜1.30)
・グリブリドの調整済みハザード比1.26,(95% CI 1.16,〜1.37)、グリピジドの調整済みハザード比 1.15(95% CI 1.06,〜1.26)と2剤のSU薬で差はなかった
結論
・糖尿病の初期治療のためのSU薬とメトホルミンを比較した場合、SU薬はメトホルミンよりも心血管疾患(急性心筋梗塞、脳卒中)の入院または死亡のリスク増加と関連している
Eriksson JW, et al.
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目的
重症低血糖、心血管イベント、全死亡率をメトホルミン+SUとメトホルミン+DPP-4阻害薬にて比較検討
デザイン
観察研究
追跡期間
2006年から2013年の間にメトホルミン+SU若しくは、メトホルミン+DPP-4阻害薬を開始した2型糖尿病患者
対象者
2006年から2013年の間にメトホルミン+SU(40,736名、65.3歳、男性59%)若しくは、メトホルミン+DPP-4阻害薬(12,024名、61.1歳、男性62.5%)を開始した2型糖尿病患者
方法
スウェーデンの国内登録データを活用
結果
・メトホルミン+SUでは重症低血糖2.0件/1000人/年、心血管イベント19.6/1000人/年、全死亡率24.6/1000人/年
・メトホルミン+DPP-4阻害薬では重症低血糖0.8件/1000人/年、心血管イベント7.6/1000人/年、全死亡率14.9/1000人/年
・心血管疾患と全死亡をグリベンクラミドは25%と37%増加、グリピジドは11%と17%、グリメピリド11%および11%。グリベンクラミドのみ統計的有意差あり。
・重症低血糖はグリベンクラミドで81件、グリピジドで19件、グリメピリドで20件。グリベンクラミドとグリメピリドは数値的に増加し、グリベンクラミドは統計的有意差あり。
結論
メトホルミン+SUはメトホルミン+DPP-4阻害薬よりも重症低血糖、心血管疾患、全死亡のリスクが高い
Bain S, et al.
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目的
心血管イベントと死亡率をSU薬と他の糖尿病薬と比較検討
デザイン
システマティックレビューとメタアナリシス
追跡期間
上記試験デザインのためなし
対象者
2型糖尿病患者
方法
82件のランダム化比較試験と26件の観察研究を使用
結果
・SU薬では他の血糖降下薬と比較して全死亡と心血管死のリスクが有意に高かった
(全死亡のHR:1.26 95%CL 1.10〜1.44、心血管死のHR:1.46 95%Cl 1.21〜1.77)
・心筋梗塞のリスクはSU薬がDPP-4阻害薬と比較して有意に高かった(HR:2.54、95%Cl 1.14〜6.57)
・心筋梗塞のリスクはSU薬がSGLT-2阻害薬と比較して有意に高かった(HR:41.80、95%Cl 1.64〜360.4)
・脳卒中のリスクは、SU薬においてDPP-4阻害薬、GLP-1受容体アゴニスト、チアゾリジン、インスリンよりも有意に高かった
結論
・現在のメタアナリシスでは、SU薬はその他の血糖降下薬と比較して心血管疾患のリスクを高める可能性がある
ADVANCE試験
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目的
2型糖尿病患者における強化血糖コントロールと血管アウトカムを検討
主要エンドポイント:大血管イベント(心血管疾患による死亡、致死的または非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中)と微小血管イベント(新規または悪化する腎症または網膜症)の複合
デザイン
無作為
追跡期間
5年(中央値)
対象者
・2型糖尿病患者11,140人、平均HbA1c:7.5%
・1つの大血管イベントまたは微小血管イベント歴がある、もしくは1つ以上の血管イベントのリスクファクターがある
・2型糖尿病と診断された年齢が30歳以上、試験開始時に55歳以上
方法
グリクラジド徐放錠を用いてHbA1c6.5%以下を目指す群と標準治療群に分類
結果
・試験終了時の強化療法群の平均HbA1c6.5%、標準治療群の平均HbA1c7.3%
・大血管イベントと微小血管イベントを合わせた複合エンドポイント発生率が減少HR:0.90(95%信頼区間[Cl]0.82-0.98)
(強化療法群と標準治療群の複合エンドポイント発生率はそれぞれ18.1%、20.0%)
・大血管イベントHR:0.94(0.84-1.06)、心血管疾患による死亡HR:0.88(0.74-1.04)
・腎症の発生率低下HR:0.79(0.66-0.93)、網膜症に影響なし
・重度低血糖【強化療法群:2.7%、標準治療群:1.5%、HR:1.86(1.42-2.40)】
結論
・グリクラジド(徐放性)および必要に応じて他の薬剤を追加投与する強化療法群は、大血管イベントと微小血管イベントの複合発生率を10%減少させた。その主な要因は腎症の発生率を21%低下させたことによるものであり、大血管イベントの発生率を減少させる効果は認められなかった。