こんにちは。 マサです。
薬剤師の皆さんは、新薬が発売された時に、価値のある新薬かどうかを正しく評価できていますか?
たくさん処方されると思ったけれど、発売されたらそうでもなかった、という経験はありませんか?
私は薬剤師2年目から新薬の評価方法を勉強し、会社内で発表してきました。
私の会社では、若手薬剤師が新薬について発表します。若手が1ヶ月かけて勉強したことよりも、発表前に1時間程度勉強した私の方が新薬について深く理解できます。
今日は、私がどうやって新薬を評価できるようになったのかを記事にしました。
若手薬剤師の新薬発表を聞くと、『薬については調べたけれど、病気については調べていない』とよく感じます。
私は、新薬を正しく評価するためには、薬を知るために情報を集める『薬を見る視点』と、新薬を必要としている病気の情報を集めて『病気から新薬を見る視点』の2つが大切と考えています。
目次
・薬を見る視点
・病気から薬を見る視点
・発売後に評価が変わることがある
・海外文献の選び方
薬を見る視点
最初に確認するのはインタビューフォームです。
インタビューフォームの中でも『開発の経緯』と『製品の治療学的特性』を最初に確認します。
『開発の経緯』を確認すると、今の医療の問題点や足りない点がわかることがあります。
例えば、スーグラ錠の『開発の経緯』には以下のように記載されています。
現在、様々な作用メカニズムを有する糖尿病治療薬が使用されているが、国内 55 施設において 2008 年 1~7月に実施された調査結果では、経口血糖降下薬で治療中の糖尿病患者のうち良好な血糖管理が達成されている割合は 38.6%に過ぎないことが報告されており 、未だ血糖管理に対するアンメットニーズは存在していると考えられる。
要するに、『既存の治療薬により十分に血糖値コントロールができている患者さんは38.6%であり、その問題を解決する新薬を期待している』ということです。
次に、スーグラ錠の『製品の治療学的特性』には以下のように記載されています。
腎臓でのグルコース再吸収を抑制する、日本初の選択的 SGLT2 阻害剤である。
要するに、新薬の特徴が記載されています。
スーグラ錠の場合は、新しい作用機序の薬のため『日本初』との記載になりますが、そうでなかった場合は、既存薬との差別化の記載になると思います。ただ、差別化の記載がない場合もあります。
次はインタビューフォームをそのまま読んでいきます。
ここで既存薬との比較試験があれば確認します。
比較試験がない場合は、既に発売されている作用機序の新薬であれば、インタビューフォームにて違いを探すことや海外文献があるかどうか探します。そこで新薬の特徴を確認します。
インタビューフォームや海外文献にて新薬の特徴がなかった場合ですが、新薬が発売されたということは、既存薬とは違いがあります。作用機序の選択性、半減期、相互作用などです。その違いが日常診療に大きな違いを生むのかどうかを考えます。大きな違いがなければ、そういう薬ということです。
新しい作用機序の新薬だった場合は、新しい作用機序がどれほど現在の治療の問題を解決してくれるのかを考えます。
例えば、インタビューフォームの時に紹介したスーグラ錠ですが、今までの糖尿病治療薬ではなかった体重減少の効果があります。
肥満が糖尿病の状態悪化を招きますので、新しい作用機序が糖尿病治療にとってとても有用な作用機序ということがわかります。新薬として価値があるということです。
薬からの視点から調べるのはここまでです。
ここまででは、新薬を十分理解できないことが多くあります。そのため、次からは病気からの視点で新薬を考えます。
病気から薬を見る視点
先ほど、スーグラ錠は『今までの糖尿病治療薬ではなかった体重減少の効果』を持っている話をしました。
糖尿病の治療において、この『体重減少』がもたらす価値を理解しているからこそ有益な薬と判断できます。
新薬を評価する時に、『糖尿病と体重』という知識がなければ、スーグラ錠を正しく評価できないと思います。
薬しか考えない方が多くいると思います。私としては、『新薬を評価するためには、まず病気を知る必要がある』と考えています。
私は病気から新薬を見る視点を身につけてから、やっと新薬の正しい評価ができるようになりました。
それまでは、『新しい薬が発売されたことで選択肢が増えた』程度にしか理解できず、本当の価値を理解できていませんでした。
なので、
インタビューフォームを確認 → 病気について調べる → 海外文献を探す → 疑問が残ればメーカーに確認やインタビューフォームの再確認
の流れになります。
『病気を知る』とは、現在の標準治療が何であり、なぜそれが標準治療になっているのかを知ることです。それが治療の方向性の理解と、薬の選択順序の理解につながります。
この流れで多くの薬を評価できます。
発売後に評価が変わることがある
先ほどからスーグラ錠を例にしているので、同じ系統のジャディアンス錠について紹介します。
ジャディアンス錠はSGLT-2阻害薬としては最後である6番目に発売された薬です。
そのため、発売当初は他の薬と特別な違いがないように考えていました。
しかし、途中で大きな価値を証明しました。それが『EMPA-REG OUTCOME』試験による結果でした。
『EMPA-REG OUTCOME』試験では、心血管疾患既往の2型糖尿病患者において、ジャディアンスを標準治療に上乗せした場合にプラセボと比較して、心不全による入院(副次評価項目)リスクが35%低下しました。これが大きく評価され、SGLT-2阻害薬の中での地位を押し上げました。
このように、大規模臨床試験の結果が発表されることで、途中から評価が変わることがあります。
医療はエビデンスに基づいています。ガイドラインもエビデンスが集まることで見直しが行われます。
なので、常に新しい情報を収集していく必要があります。さらに言えば、海外文献を読むことに抵抗を持ってはいけません。海外文献を読むことにはすぐに慣れます。
Google翻訳もありますので、英語文献を読む際の時間短縮につながります。
Google翻訳が正確かどうか心配になる方がいると思いますが、薬剤師になれた学力があれば英語文献と比べて読めば間違いがあってもわかると思います。
このように新薬を評価していくと良いと思います。
『血糖値を下げる効果の強い薬』よりも、『血糖値を下げる効果はそこそこでも、死亡率を下げる効果のある薬』の方が、価値があると思います。
慢性心不全にて使用されるスピロノラクトンも、利尿剤としての価値よりも死亡率を下げる価値があるからこそ使用されています。
海外文献の選び方
海外文献を見つけても、その文献が信頼できるかどうか、悩むことがあります。
その時は、文献の最初の1ページがまとめになっているので、それを読んで、読む価値のある文献かどうかを判断します。
しかし、慣れていないとそれも難しいと思いますので、世界五大医学雑誌に掲載された文献であれば、おそらく信頼できる文献と考えれば良いと思います。
世界5大医学誌に掲載されていない場合は、見つかった文献の最後に結論があります。そこを読むことで、その研究の足りない箇所や今後考慮すべきことなどがわかることがあります。それを考慮して参考にすべき文献かどうかを考えます。
各科専門誌もありますので、五大誌でなくても信頼できるものもあります。
世界五大医学雑誌
・NEJM( New England Journal of Medicine )
・Lancet
・JAMA( Journal of the American Medical Association )
・BMJ( British Medical Journal )
・Annals of Internal Medicine