お薬について

薬剤師が考える『 HIF-PH阻害薬 』に期待されていること!!


こんにちは。 マサです。

調剤薬局にて薬剤師として働いています。

今日は続々と新薬が発売されているHIF-PH阻害薬について、薬剤師目線で考えていきたいと思います。

あなたは、『HIF-PH阻害薬とESA製剤の違いを説明できますか?』と質問されたら、あなたなりの考えを答えることができますか?
私はできませんでした。なので今回勉強して、私なりの答えを述べたいと思います。

HIF-PH阻害薬とは:HIF-PHは『Hypoxia Inducible Factor - Prolyl Hydroxylase』の略です。
HI-PFを阻害することで体を低酸素状態と錯覚させます。そうすると赤血球産生や鉄代謝に関与する物質(EPO、その他の遺伝子の転写など)が誘導されます。
同時に鉄吸収や肝臓からの鉄の放出を抑えるヘプシジンの産生を抑制し、鉄利用を高める作用もあります。

ESA製剤とは:エリスロポエチンなどの赤血球造血刺激因子製剤

HIF-PH阻害薬について日本腎臓学会よりRecommendationが出されています。確認しておく必要があります。

HIF-PF阻害薬に期待されていること

今まで注射でしか治療できなかった治療を、内服でも行えるようになったことです。
注射剤は月に1回〜2回の使用が必要でした。そのため、月に1回〜2回は病院を受診して注射を受ける必要がありました。

人工透析患者さんのように定期的に病院を受診する患者さんではなく、慢性腎不全の患者さんであれば、注射のたびに受診することは時間的制約に繋がります。また、月に1回〜2回の注射を打ちたいと願う患者さんがいるようには思えません。

その他、ESA製剤が効きにくい患者さんがいます。そういった患者さんはESA製剤を大量に使用するかHIF-PH阻害薬が必要です。大量のESA製剤を使用せずに済むかもしれないことは、患者さんにとって大きなメリットになるかもしれません。

なぜ内服薬で治療できるようになったの?

今まではエリスロポエチンを注射していました。しかし、エリスロポエチンの内服がありませんでしたので、エリスロポエチンを増やすような内服薬としてHIF-PH阻害薬が開発されました。

HIF-PH阻害薬とESA製剤での副作用の違い

共通している副作用は、高血圧高カリウム血症血栓塞栓症血管石灰化などがあります。
 
HIF-PH阻害薬に特有なものとして、悪性腫瘍糖尿病性網膜症加齢黄斑変性症肺高血圧症心不全嚢胞の増大糖・脂質代謝への影響などがあります。いずれもHIF-PH阻害によって生じる可能性があります。
今回のHIF-PH阻害薬はまだ新しい薬です。そのため、長期的に使用した時に懸念されている副作用が、その通り生じるのか、または生じないのかは現在ではわかりません。
特に懸念されている副作用が、『糖尿病性網膜症』『悪性腫瘍』の悪化です。

網膜症と悪性腫瘍の懸念とは?

網膜症

新規に発症するリスクが増す可能性があります。
糖尿病性網膜症や加齢黄斑変性症の発症機序や進行にはHIF-1αとVEGFが関与しています。VEGFはHIF-1αによって誘導されます。
そのため、HIF-PH阻害薬を使用すると網膜症や加齢黄斑変性症に悪影響を及ぼす可能性があるHIF-1αとVEGFが増加するため、注意が必要とされています。

悪性腫瘍

新規に発症するというよりも、今ある腫瘍を悪化させる可能性があります。
HIF-1αたんぱくの発現亢進と癌の進行・転移との正の相関関係が示されているようです。
ただ、細胞の悪性転化については、これに決定的に働くドライバー遺伝子変異の蓄積が必要であり、この過程をHIF-PH阻害薬が促進するエビデンスは現時点ではないそうです。
しかし、既に癌化した細胞の分裂や転移、遊走能などの事象についてはHIF活性化の影響が十分に予測されます。

最もリスクが高い悪性腫瘍は腎臓

大部分の淡明細胞型腎癌では、VHL癌抑制遺伝子の変異・不活性化が起きており、その結果転写因子であるHIFの活性化も起きています。

HIF-PH阻害薬を使用すれば腎性貧血は改善するか

ESAと同様に腎性貧血の改善を期待できます。

ESA製剤やHIF-PH阻害薬には十分な鉄が必要

ESA製剤、HIF-PH阻害薬に共通していることですが、どちらも十分な効果を得るためには、十分な鉄が必要です。
ESA製剤、HIF-PH阻害薬は、どちらも赤血球を増やします。赤血球を増やすためには鉄が必要です。そのため、十分な鉄がなければ目的とする赤血球を作ることができないため、薬の効果が十分に発揮されません。

十分な鉄量は?

TSAT:20%以下または血清フェリチン100ng/mL以下の場合は鉄が不足していると判断します。
{TSAT : トランスフェリン鉄飽和率 = 血清鉄 ÷ TIBC × 100 (%)}

ESA製剤やHIF-PH阻害薬の効果が不十分な時

ESA製剤・HIF-PH阻害薬を増やすよりも、鉄の量を確認しながらまずは鉄剤を増やすことを推奨されています。
理由はCHOIR試験を受けてのことと思います。
CHOIR試験にてHbを13g/dL以上にすると死亡や心不全による入院リスクが増加する結果が出ました。ただ再解析にて、高用量のESA製剤を使用することが予後悪化につながると結論づけられています。

鉄剤は経口でも注射でも、どちらでも良いの?

基本的には経口が勧められています。

理由は、HIF-PH阻害薬使用中は、消化管からの鉄の吸収が改善するために経口鉄の効果が、HIF-PH阻害薬使用前よりも期待できるためです。

しかし、重症心不全やPPI服用中など経口での吸収が期待できない場合や、嘔気や便秘などの消化器障害がある場合は注射の使用を考慮します。

ただ、せっかくHIF-PH阻害薬にて注射剤から内服治療に変更できたのであれば、まずは経口での鉄剤服用から開始することをオススメします。

ESA製剤やHIF-PH阻害薬を開始する腎性貧血の目安

透析患者

Hb:週初めの採血で複数回Hb:10g/dL未満となった時点を推奨

CKD保存期の患者

Hb:週初めの採血で複数回Hb:11g/dL未満となった時点を推奨

ESA製剤やHIF-PH阻害薬を活用した腎性貧血の目標値

透析患者

Hb:10g/dL以上12mg/dL未満
(9g/dL未満の群で死亡率が高かった。そして9-10g/dLでは有意差はないが死亡率が減少したため)

CKD保存期の患者

Hb:11g/dL以上13g/dL未満
(ただし、重篤な心・血管系疾患の既往や合併のある患者、あるいは医学的に必要のある患者にはHb値12g/dLを超える場合に減量・休薬を考慮する)

なぜHb13g/dL以上にしてはいけないのか

CHOIR試験の影響を受けての判断と思います。
CHOIR試験にてHbを13g/dL以上にすると死亡や心不全による入院リスクが増加する結果が出ました。ただ再解析にて、高用量のESA製剤を使用することが予後悪化につながると結論づけられています。

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